おでかけ

板橋職人探訪1 提灯職人が緊張する1文字とは?

□「塗る」よりは「丹念に色を置いてゆく」感覚□

東京都板橋区の『伝統工芸・職人』に焦点を当てる新シリーズ。第1回目は大谷口上町にお住まいの『江戸提灯』職人・早川俊男さん(84歳)。

■4代・100年を超える提灯職人の系譜

▲5月に開催された『板橋区の伝統工芸展』で

提灯作りは完全分業制だ。型を整えた竹ひごに和紙を貼って提灯そのものを作る職人と、提灯に文字を書く職人はまったく別。早川さんは『提灯書き』の職人で、工業高校を卒業してすぐにこの道に入ったというから、職人歴は70年にも及ぶ。
「初代は私の叔父で、『早川商店』の創業は大正3(1914)年。父が二代目。三代目の私を挟んで、いまは四代目の次男といっしょにやっています」(早川さん) 今年で102年目!

▲提灯の内部にはこれっぽっちも無駄がなくて合理的。時間に洗われてきた美しさがある

「提灯の需要もずいぶん変わりました。電気以前は、大八車も自転車も提灯を点けていたんですよ」と、遠い目をなさる。
「戦時中は、大きな幟(のぼり)で出征する兵隊さんを送り出したものです。その字を書くのも私どもでした」。
「昔は墨で。硯で擦っていたのでは間に合わない。当たり鉢に墨を20本くらい入れて杓文字でかき回すんです。粘り気が出てきたら水をすこぅしずつ足して。いっぺんに入れるとだめなんですよ」と、瞼を閉じて。
提灯が日用の必需品ではなくなった現在、注文は神社の奉納用、商店街の祭りや宣伝、冠婚葬祭がメインになった。

■書であり絵でもあり、書ではなく絵でもない

組み上がった提灯に文字を書く。想像しただけでも容易な仕事ではない。
「大量生産の場合は、紙に印刷しておいたものを貼ることもありますが、それだとどうしても、ね」(早川さん)

▲あとから貼ったもの。よく見ると張り合わせた部分に段差が

▲組み上がった提灯に字を書くときに輪郭線は必須

「どんな名人でも、いきなり字を書くことはできません」(早川さん)

▲円は家紋のためのもの。きれいな丸だ

▲提灯用に工夫されたコンパス

早川さんは、コンパスではなく「ぶんまわし」と呼んだ。いいですねえ、職人の言葉って。針先から数ミリのところに段があり、紙に深く刺さらないように工夫されている。

▲1世紀を超えて伝わる家紋帳

「漢字と仮名がある日本語は、やはりすばらしいと思います」。文字を見続け、考え続け、書き続けてきた早川さんの言葉だけに重みが違う。
文字に対する見方にも職人ならではの感覚が光る。「たとえば『町』という字なんか気になりますね。印刷だと「田」と「丁」の、いちばん上の横線を一本にくっつけてしまっているのが多いんですよ。あれは字として様子がよくないですね」

■江戸提灯の職人が「難しい」と言う文字

「早川さんでも『この字は難しいな』と感じる字がありますか?」と質問した。
「そりゃあ、ありますよ。いちばん難しいのは……」と教えてくれたのが『寸』。

▲『町』と『寸』を書くときのポイントを教えてくださった

「『寸』は、ハネと点のバランスがとても難しいんです。すこしでも狂うと字に見えなくなっちゃう」(早川さん)。
また、『門』も難物だそうだ。「『開』のように、中がある字なら形が取りやすい。でも『門』はなかなか」。
提灯に書かれた文字として、おそらく日本一有名な浅草寺の『雷門』についてうかがうと、「あれもねえ」と静かに笑っていた。

■時代が変われば仕事も変わる

訪問時に四代目の正さんが色鮮やかな「何か」を書いて、いや、描いていた。

▲特殊な型を用いた仕事の最中。親指の爪の形、三代目の俊男さんとそっくり

▲道具もカラフル

▲完成品。和菓子店組合からの依頼の店頭用ポスターだ

▲横書きやアルファベットの仕事も増えている

「いまは墨ではなく水性カラー。濡れても溶けないので便利ですね。でも乾くと厚みが出てしまうから、本来の提灯として考えると、折りたたむときに具合がよくない」(早川さん)

提灯が実用を離れて装飾用となった現在。『江戸提灯』職人も、新たな道を歩み始めている。

提灯の技術を活かした東京タワーやジャック・オー・ランタン。東京タワーは提灯本体も早川さんの手によるものだ

▲印象に残る仕事「カナダのバーリントン市に贈った提灯」 ※写真提供:板橋区役所

2014年、姉妹都市提携25周年を記念して寄贈された提灯。区の鳥:ハクセキレイ、花:ニリンソウ、木:ケヤキが意匠化されている。


 

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住所:東京都板橋区大谷口上町7-5
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電話:03-3956-0841
営業時間:9時から20時
定休日:日曜日
————————————–

■054 取材日:2015.5.25

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