福岡県

天拝山の麓で、まいった!と叫んだ蕎麦


天拝山のすぐ近くにある、古民家風の蕎麦屋『手打ちそば一作』を紹介する。

石臼挽きの自家製粉で、蕎麦の香りを損なわずに出す店と評判が高い。東京風の辛めのカエシと細麺、聞くところによれば店主は「江戸東京そばの会」の卒業生なのだそうで、これは蕎麦好きの間では一種のお墨付きであるらしい。ちなみに「一作」は俳句の師匠の名を貰ったのだとか。



▲古民家風というよりは古民家そのものの店構えだ。一応は看板が出ているのだけれど、初めての客には見つけにくいかもしれない。周囲を畑に囲まれていて、ほとんど山里の風景に溶け込んでいる。夜が更けるとあたりは真っ暗で、ここだけ煌々と明かりが灯っている。なんだかホッとする光景だ。


▲▼趣味のよいアンティーク家具や電気製品、民芸品などが一見して無造作に置いてある。客席は畳敷きの座敷に掘りごたつ、テーブル席もある。


店内にはジャズがかかっている。調度品の選択や配置に気を遣っているのは確かだけれど、おしゃれな店というのとは少し違う。ゆっくりと腰を据えて寛げるムード作りができている。知らず知らずのうちに根を生やしてしまいそうだ。

この落ち着いた雰囲気が、混み始めるに従ってガラリと性質を変える。たまたま子供連れの夫婦がいて、小さな女の子が2人、キャッキャとはしゃいでいた。それが全然騒がしく感じられないのは、古民家という特殊な空間を効果的に使っているからだ。年に一度の正月に、親戚一同が本家に集まる感覚に似ている。夫たちは座敷で、おばちゃん連中は台所で、子供達は縁側に集まってそれぞれに盛り上がっている。
毎回1人で訪れる僕はイトコの浪人生的な役を与えられ、いつも子供達に近い席に座らされる。嫌な感じはしない。むしろ、ちょっとくすぐったい。

このひどく懐かしい感覚は、勘定を支払って店をあとにするまで尾を引く。それが浪人生の身には少し堪える。
レジスターから釣銭を取り出しながら、賄いのおばちゃんが言う。
「あら、◯◯ちゃんはもう帰るとね」
「すいません、勉強があるので」
「受験勉強も大切ばってん、あんまり根詰めるといけんよ」
すっかりできあがった叔父の胴間声が響く。
「◯◯は東大ば目指すとやけんな」
背中越しに、どっと笑い声が起こった。
「来年は大学生になって、彼女ば連れてこんね」
苦笑いしつつ独りごちる。
うるせえな、ほっとけよ酔っ払いども。


▲せいろ蕎麦の大盛り。ワサビの代わりに辛味大根を薬味として使う。これが非常にオツだ。辛味大根の効いたツユを蕎麦湯で割ると、すっきりと味が整って蕎麦のスープを味わっているよう。


▲こちらは、おろし蕎麦の大盛り。蕎麦の上にのっているのが普通の大根おろしで、薬味はやはり辛味大根。混ざってしわまないのが不思議だ。器に注ぎ口がついているのは、食べ終えたら蕎麦猪口にツユを移して蕎麦湯で割るため。


▲地鶏そばと地鶏ごはん。温かいそばにも辛味大根を入れる。後味がさっぱりする。


▲蕎麦がきは土佐醤油、餡子ときなこの2種類から選べる。食べ方はお好み次第。舌触りが滑らかで、お上品な甘み。


▲グルメサイトに載っているものは情報が古い。こちらが最新の品書き。

天拝山と周辺のスポットをまとめて紹介するつもりで、随分前から準備していた。実はこの記事が2本目になるはずだった。
まずは客として訪れ、その時は二八の蒸篭を頼んだ。2回目は十割の蒸篭を、帰り際に名刺を渡して、店主から記事にする許しを貰った。その場で簡単に質問をして、帰宅後に文章を拵えるつもりでいた。ところが、もう一回食べてからにせねばという気になった。今まで蕎麦という食べ物にこだわったことがなかったからかもしれない。四十数年生きてきて、何十何百と食べてピクリとも反応しなかったのに、この店を2回訪れただけでいきなり蕎麦の良し悪しに開眼した。この感覚を忘れないうちに繰り返し味わっておかなければと思ったのだ。

そこからは毎回、訪れるたびに今度こそは記事にするぞと決意を新たにしつつ先延ばしにしてきた。もっとも、味を云々するのは地域編集長の本分に外れるし、ましてや点数をつけたりするわけでもない。それがわかっているのに書けない。比較対象が欲しくて他の店を食べ歩いたりもしたから、いったい幾ら注ぎ込んだかしれない。記事にしなければすべてが無駄になるという重圧もあって、底なし沼にハマったかのような気分だった。

夜中に無性に一作の蕎麦が食べたくなって我慢ができず、車を飛ばして閉店間際に滑り込んだ。これで最後と思った。
家に帰って自棄っぱちでパソコンに向かっている。まいった。もうまともな記事は諦めた。早いとこ片付けて、次は普通の客として行こう。

▼手打ちそば 一作
福岡県筑紫野市塔原南2-6-10(地図を表示する
092-928-7692
JR二日市駅から15分
昼 11:30~15:00
夜 18:00~20:00(土日のみ)
火曜定休

関連記事

  1. 待ちに待った「博多マルイ」ついにグランドオープン!
  2. 当たりが出たらワンモアスイーツ!当たりくじ付ケーキ
  3. まぼろしの夫婦餃子を御賞味あれ!『宝香閣』
  4. 腹ぺこ少年の夢カレー『ケンチャンスマイル!』
  5. 手食のススメ!『ラメス』でネパール料理を食べよう。
  6. 笑いの渦に包まれよう!よしもと沖縄花月1周年公演
  7. 福岡で美味しいニシン蕎麦を『大地のかぜ』
  8. 夏休みの自由研究にどうぞ。閑静な住宅街に謎の巨石!

コメント

  1. この記事へのコメントはありません。

  1. この記事へのトラックバックはありません。

PAGE TOP