▲背脂スコール!
東京都板橋区常盤台のラーメン店『下頭橋ラーメン』を紹介する……まえに、伝説のラーメン屋の話を。
その店の名は『土佐っ子ラーメン』。別名を『土佐っ子』という。『環七ラーメン』と呼ぶ人も多かった。
『土佐っ子ラーメン』はラーメン屋台として生まれ、1964年に開通したばかりの東京都道318号環状七号線(環七)に面した板橋区常盤台に店を構えた。
この店のラーメンの特徴は、豚の背脂をラーメンどんぶりに振りかける豪快な製法と、醤油ベースの独特で濃いスープ。メニューはラーメンとチャーシュー麺だけ。具は脂身たっぷりのチャーシュー、ゆで玉子(半分、スライス)、長ネギ、メンマとシンプルだ。あ、この店の場合は背脂も具として数えるべきかな。
夕方から翌朝までの営業で、タクシーやトラックの運転手たちの間に広がった「すげえラーメン」の噂が噂を呼んでほどなく行列店に。ラーメン屋に行列ができることじたいがニュースになった時代の話だ。
▲写真は下頭橋ラーメンの『ラーメン』(750円)
■『土佐っ子』伝説
・カウンターのみで椅子などない立ち喰い。混雑と行列のため、冬でも出入り口のガラス扉は開けっ放し。
・価格はつねに他店と較べて3割ほど高め。屋台のラーメンの相場が30円だった時代でも『土佐っ子ラーメン』は80円だった。
・一杯のどんぶりのなかでも味の濃淡がある(つくりかたが雑)。
・いちどに16杯のラーメンをつくる。
・つくっている途中で常連さんが店に近づく姿を店員が見つけると、どんぶりがひとつ増え、16杯ぶんの材料で17杯のラーメンができあがる。
・先払いで、代金と引き換えに箸を受け取る。16人単位でふつうの箸と「頭を赤く塗った箸」が手渡され、これが予約券の役目を果たす。「はい、赤い箸の人出るよ~」
・ラーメンどんぶりの外側にも背脂が飛び散っているため、どんぶりを持つと手に脂が。カウンターにティッシュペーパーを箱ごと置いたのはおそらくこの店が最初。
・飛散した背脂のために調理場の床はヌルヌル。定期的に床をホースの水で洗い流す。従業員はゴム長と(なぜか)ダボシャツ姿。国際救助隊(サンダーバード)のような帽子をかぶっていた。
・環七がラーメン激戦区となった一因はこの店にある。
・店の前には信号機も横断歩道もない。この店に行くために環七を無理に渡ろうとする人が原因で事故が続いたため、中央分離帯ができた。時には「土佐っ子渋滞」も。
・「背脂チャッチャ」という言葉は、この店のラーメンを形容するために発案された。
……などなど。よい意味でも悪い意味でも「豪快」な店だった。
その豪快さが、ラーメンの味とは別の面で発揮されてしまった結果だろう。バブル期に『土佐っ子ラーメン』の経営権と商標は某不動産業者の手に渡ってしまう。
▲行列店の跡地は駐車場
かつて『土佐っ子』があった場所。現在は駐車場となっている。
関連記事『環七背脂チャッチャ伝説』の遺伝子を継ぐ店(後編)」
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『下頭橋ラーメン』
住所:東京都板橋区常盤台3-10-3
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最寄り駅:東武東上線『ときわ台』『上板橋』
どちらからも約900メートル
電話:03-3967-5957
営業時間:18時~28時(翌日午前4時)
定休日:水曜日
喫煙可
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【■020 取材日:2015.2.22】
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