福岡県



美味しいコーヒーってどういうものか、言葉で説明できますか」

いきなり尋ねられて答えに窮した。昔からお茶代わりにガブガブ飲んできた。最近はだいぶマシになってきたけれど、ひと昔前のファーストフードやサービスエリアのコーヒーでも、特にまずいと感じたことはない。
甘い物が好きなので、それに合うのが美味しいコーヒーです。考えに考えた挙句、僕が捻り出した回答がこれだ。その点でいうと、職場の休憩室に常備してあるものが最も口に合う。インスタントではないが、安かろう悪かろうを挽いて粉にしたような味だ。煎じ薬のような渋みは茶道に通じるような気がする。分厚く切った羊羹に合う。美味しいというのとは違うけれど、なによりキロ単位でまとめ買いしてあるから、遠慮なく浪費できるのが嬉しい。

「そうですね、それも一つの答えです。今夜はその美味しいコーヒーが、なぜ美味しいのかについて教えます」

JR九州本線原田駅前の『R’s cafe』では、毎週金曜の夜に「コーヒーのはなし」と題したワークショップを開いている。講師を務めるのはR’sの店員、ヒラツカクニアキさんだ。
ヒラツカさんは31歳。前職はつけ麺屋だったそうだ。もともとバリスタの仕事に興味があって、一念発起してこの業界に飛び込み、ほぼ何も知らない状態から独学で知識と技術を身につけた。
「ちょうど僕がこの世界に入った頃から、コーヒー業界が一気に開けて、新しい情報がどんどん入ってくるようになりました」
つけ麺屋時代に培った、自分で試行錯誤しながら味を作り出す経験が、バリスタとしての仕事にも活きているそうだ。


▲フレーバーをわかりやすく円形にした図。フルーツやナッツなどに混じって、泥や炭などの形容もある。

講義はカップ・オブ・エクセレンスと呼ばれるコーヒーの品評基準を基に、味わいや口触り、香りなどを系統立てて説明しながら進行する。コーヒーを飲みながら、というのが嬉しい。もちろんそれも教材のひとつだ。

前半では知識だけを流し込み、終盤に差し掛かるにつれ徐々にディープな方向へと進み始める。
「実感がわかないかもしれませんが、味がわかってくると、作っている人や豆のバックボーンがイメージできるようになります」
豆のもつ素性など、今まで考えたこともなかった。国や人、高度、日照時間、土、農場の環境、設備、運搬の手段、様々な要素が加味されて、最後に飲む人の元へと届く。シンプルなようで複雑だ。
「まずは色々飲んでみて、自分が美味しいと思ったコーヒーについて知ることから始めてください。わからないことがあれば、なんでも聞いてくださって結構です」
そのための基本的な知識を学ぶ場、というわけだ。


▲受講者が質問を挟むたびに、資料を開いて丁寧に教えてくれる。当初1時間の予定で始まった講義は、どんどん長くなった。終始なごやかな雰囲気で、話が脇道に逸れたまま戻ってこなくなることも。

コーヒーを味わう上で、なにか秘訣のようなものがあるのだろうか。ヒラツカさんに尋ねてみた。
「普段から、口にした物を意識して味わうことが大切です」
簡単なようだけれど、それは僕のような味オンチには難しい。
「味覚というのは経験の積み重ねですから、常日頃からちゃんとしたものを食べる習慣をつけるといいですよ」
なるほど、よく聞く話ではあるけれど、インスタント食品やコンビニ弁当ばかり食べていてはダメだということだ。
ヒラツカさんは油山の麓、自然に囲まれた環境で生まれ育った。自身の生い立ちが、バリスタとしての素養にプラスに働いたことがあるだろうか。
「どうでしょう。ただ、子供の頃からの食事がベースになっているのは間違いありません。ちゃんとしたものを食べさせてくれた両親に感謝しています」

話を聞くうちに、バリスタという職業に対する先入観が薄れていった。熟練の技術を、さも簡単な事のように演出するプロフェッショナルは少なからず存在する。シンプルな事象を複雑怪奇に曲解して、それをコダワリだと主張するマニアもいる。経験則のみに捉われず、些細なことでも理論立てて説明するヒラツカさんの姿勢からは、そういった人種とは異なる医療専門職に近いものを感じた。


「当たり前のことが、当たり前にできることです。これはコーヒーに限ったことではありませんが」

複雑なようでシンプルな、含蓄のある言葉だ。踏み出したばかりの僕にはまだピンとこないけれど、コーヒーとはたぶん、そういうものなのだ。

▼コーヒーのはなし
毎週金曜日19時30分より
コーヒー代こみ1500円
担当:ヒラツカ

▼おいしい珈琲の店 R’s cafe
福岡県筑紫野市原田6-5-5(地図を表示する
092-927-3705
月〜土 10時〜20時
日曜日 10時〜19時
不定休
駐車場あり
JR九州本線原田駅前

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