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JR原田駅前、謎の旅人像の正体に迫る


▲JR鹿児島本線 原田駅前ロータリーには旅姿の男性像が設置されている。彼はいったい何者なのか。物言わぬ像は静かに微笑む(ニヤニヤする)だけだ。

「原田駅と伊能忠敬について、なんてどげんやろか」
ことの発端は友人からの電話だった。彼には最前より、筑紫野市の地方トピックスになりそうなネタがあったら教えてくれと頼んであった。大変に貴重な情報提供には違いないけれど、その後に「記事のアイディアば提供してやったっちゃけん、首尾よく書き上げたら飯でも奢れ」と続くから有難迷惑だ。

伊能忠敬が幕末の人で、日本で初めて全国地図を作った測量家だ、ということくらいは日本史の苦手な僕でも知っている。内容はほとんど記憶にないのだけれど、10年以上前に伊能忠敬が主人公の映画を観て大変な感銘を受けたことがあった。とうの立ち始めた賀来千香子が逆にすごく綺麗だったのが忘れられない。しかし、当の伊能忠敬が筑紫野市ゆかりの人物だという話は聞いたことがない。


疑問を正直にぶつけてみたところ、友人はさらに驚くべきことを口にした。なんでもJR原田駅前には、伊能忠敬の銅像が立っている(座っている)と言うのだ。

原田(ハラダと書いてハルダと読む)は筑紫野市の南西部に位置する。佐賀県三養基郡基山町との県境にあって、江戸時代には長崎街道の宿場町として栄えた土地だ。粥卜祭(かゆうらさい)で有名な「筑紫神社」や歴史の教科書にも載っている「五郎山古墳」がある。また、大型ショッピングモールとスパリゾートがあり、駅前には美味しいパン屋さんとお洒落な喫茶店が並んでいる。しかし、伊能忠敬の銅像なんて見たことも聞いたこともない。
試しに検索エンジンで調べてみたところ(検索結果へ)、結構な数のサイトがヒットした。どうやら本当に伊能忠敬像があるらしい。検索結果の中には、前任の筑紫野市地域編集長が書いたトピック「長崎街道・原田宿at筑紫野」もあった。


▲JR原田駅前の伊能忠敬らしき像。

それでも半信半疑だったのは、サイトに掲載されていた画像に引っかかる点があったからだ。銅像の伊能忠敬が、映画で彼を演じた加藤剛よりも格段に落ちるのは仕方がない。腑に落ちないのは、その顔立ちが他の伊能忠敬像と似ても似つかない点だ。


▲右が鶴岡八幡宮、左が香取市佐原公園の伊能忠敬像。漫画的なまでのへの字口だ。

さっそく現地へ取材に赴いた。初めて目の当たりにする伊能忠敬像は、画像で見た印象よりずっと地味で目立たなかった。これなら見落としても仕方がない。と同時に、新たな疑問点も浮上した。


第一に、どこにも彼が伊能忠敬だとは書いていない。隣に設置してある説明文には、確かに伊能忠敬の名前がある。ただし、それは伊能忠敬の著した書物に原田宿の記述があるということだけだ。
刀を差していないことにも気付いた。伊能忠敬は商人ながら、長年にわたり貧困救済活動に努めた功が認められ、幕府から名字帯刀を許されている。その彼が刀を差していないのはおかしい。


さらには、計測機器も持っていない。他の伊能忠敬像は、先に羅針盤を取り付けた小方位盤と呼ばれる杖を携えている。原田駅前の伊能忠敬は非常に軽装で、測量器具どころか筆記用具さえ持っていないように見える。


そして何より、顔に締まりがない。伊能忠敬は非常に気難しく、頑固で生真面目な性格だったそうだ。原田駅前の像は口元に薄っすらと笑みを浮かべ、視線は心なしか虚空をさまよっている。旅籠の食事のことでも考えているのだろうか。悩み事などなさそうだ。



質問を携え、『ふるさと館ちくしの』(筑紫野市歴史博物館)へと向かった。筑紫野市に関する考古、民俗資料、美術工芸品等を収蔵・展示する施設で、郷土史に詳しい専門家が多数在籍している。さっそくキュレーターの方に疑問をぶつけてみた。

「ときどき聞きに来られる方がおられるのですが、原田駅前の像は伊能忠敬ではありません。男性のモデルに関しては、たしか幕末から明治初期の写真を元に作成されたと聞いていますが、原田宿で撮影されたものではなかったように思います」

誤解を生んだ原因は説明不足にあるようだ。せめて旅人像とでも銘打ってくれたら、ここまで広範囲の行き違いは招かなかったかもしれない。
些細な質問に面倒な顔ひとつせず、丁寧に応じてくださった職員の方にお礼申し上げる。それから情報提供者の友人にも。紛れもなく篤い友情の賜物だ、思わず胸が熱くなった。ただし、たしかに首尾よく記事にはなったけれど、ガセネタであることには違いない。飯を奢るかどうかは別問題だ。

▼JR原田駅
福岡県筑紫野市原田2243-1(地図を表示する
092-926-2974
JR九州本線博多駅から10駅目

▼筑紫野市歴史博物館
福岡県筑紫野市二日市南1-9-1(地図を表示する
092-922-1911
開館時間 9時~18時
休館日 月曜日(祝日の場合は開館)、年末年始
入館料 無料

 

 

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