福岡県

『氷の彫刻師』料理人、西川博幸の裏の顔


西川博幸さんの普段の仕事は、レストランのシェフだ。ホテルの厨房、大名の鉄板焼レストランを経て、現在は大型パチンコ店の一角にあるレストランに勤めている。1人で店を切り盛りしながら、ゆくゆくは自分の店を持ちたいと、夢にむけて邁進する毎日だ。
ただし、ここで紹介するのは西川さんの職場のことでも、腕によりをかけたオススメ料理についてでもない。


氷の彫刻というアートをご存知だろうか。パーティーやイベントの会場で、豪華絢爛なイメージ作りに一役かっているのを目にしたことがあるかもしれない。ただ、誰が作っているのかを知っている人はあまりいない。制作過程についてもそう。木や石の像をそのまま氷に置き換えたものをイメージしがちだけれど、実はまったく異なる。
氷彫刻の起源は、唐代の中国だとか、ロシアの皇帝だとか言われている。日本での歴史は比較的浅い。諸説あるものの、明治時代にロシア大使館付きの料理人であった岩堀房吉氏が、西洋料理の普及を進める中で披露したのが始まりだそうだ。以来、おもに料理人達の手により、厨房の芸術として切磋琢磨されてきた。

子供の頃から図画工作が得意だった西川さん、高校卒業後は九州造形短期大学へと進学した。在学中は環境デザインを学んだ。特に店舗デザイン、中でも椅子を作るのが好きだったそうだ。
短大卒業後は、知人の勧めもあってホテルの厨房で働くことになる。就職活動をしていなかったとはいえ、まるで畑違いの職に就いたことに関して尋ねたところ、「面接を受けたあとで佐賀牛を食べさせてもらったんです。それがあんまり旨かったので・・・」と照れ臭そうに笑った。
「ただ、料理にしても椅子にしても、見た人を驚かせたい、喜ばせたいというところにモチベーションの源があるんです。だから根っ子は同じです」

図らずもこれが転機となり、西川さんは新たな扉を開くことになる。きっかけは職場の上司であり、既に氷彫刻の世界では多数の受賞歴を誇っていた料理人、天満邦彦氏との出会いだ。師の片腕として宴席で使う氷彫刻の製作を手伝いながら、高い芸術性と奥の深さに魅了されていった。


▲細部が大雑把に見えるのは、自然に溶けるのを想定しているため。最後の仕上げは氷自体が行う。これが氷彫刻という芸術の特異なところだ。


▲囲碁が好きな新婦のために、碁盤をあしらったデザイン。

▲歯車をイメージした作品。依頼主は工場の経営者。

やがて西川さんは九州内外のコンテストに出場し始める。一言で氷彫刻の大会と言ってもルールは様々だ。短距離走とマラソンほどにも違い、出場者の資質をも左右する。アーティストとしてのセンスだけではなく、アスリートとしての体力、忍耐強さも求められる。

「九州大会は、50分という規定の時間内に、100×50×25の氷の柱で作品を仕上げます。炎天下なので、氷はあっという間に溶けていきます。全体的に太めに、どこを最後に仕上げるかを、あらかじめ決めてから掘り進めます。途中で折れてしまったりすると、その時点で失格です。審査員が回ってくる順番に合わせて、一番美しく見えるタイミングを調節します。世界大会の持ち時間は48時間で、高さ3メートル以下の作品を作ります。会場は真冬の旭川ですから、気温は零下になります。氷が溶けない代わりに、無駄な動きが多いと、どんどん体力が削られていきます」


▲製作中の貴重なスナップ。きらびやかなイメージとは裏腹に、作業は地味で孤独。やり直しがきかない上に、氷自体が高価なため、おのずと真剣勝負になる。

競技者として、アーティストとして経験を積んだ西川さん。最終的に九州大会2位、世界大会7位の好成績を収めた。しかし、思うところあって、その後はコンテストから距離を置いている。

「ホテルを辞めた事が大きいです。ひとりでもエントリーはできるんですが、時間やお金に余裕があって、バックアップ体制が整ってないと難しい。氷の柱は1本が120キロくらいあります。とても1人では運べません。それに加えて滑りますから、慣れた人でないと任せられません」
大会に出たいという気持ちはあると西川さんは言う。ただし、今は技術を高めて他人と競い合うよりも、作品を通じて人と関わっていくことの大切さを感じているそうだ。

「プレゼントとして作品を贈られた人の、喜ぶ顔、驚く顔が見たい。最後は溶けてなくなってしまう氷の彫刻に、どれだけ想いをこめられるかが大切です」
そう語る目に、競技者としての厳しさはない。椅子のデザインから始まり、料理、そして氷彫刻と、西川さんの作るものはすべて、根底に同じ気持ちがこめられている。それは子供のような冒険心であり、みんなを喜ばせたいというエンターテイナーの気概だ。

▼問い合わせ先
『Volv Ice Carving & Design』
Tell 090-6424-9885
https://www.facebook.com/volvicd

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