□おでんはこの町の人にとって、おかずであり、おやつであり、肴である□
東京都板橋区中板橋の『太洋かまぼこ店』を紹介する。自家製のおでん種と、その場ですぐに食べられるおでんの両方を販売する店だ。
おでん種(水産練り製品)を製造・販売する店の数は年々に減っていて、東京23区内では日本水産やマルハニチロといった大手を含めても50軒ほどになってしまった。板橋区には3店が残っているが『太洋かまぼこ店』はコストパフォーマンス抜群の店だ。いまや珍しくなってしまった「町のおでん屋さん」がここにある。
■店頭販売は「おでん屋台」の趣
「うまい、やすい、はやい」は牛丼店のキャッチコピーだが、この店のおでんにもぴったり当てはまる。なかでも初めて訪れた人が驚くのが、その安さ。ひとたび『太洋かまぼこ店』のおでんを知れば「コンビニの70円均一セールなんか高くって」となってしまう。
▲税込みですよ、これ。「5円」の単位があるのがうれしい。25種類まとめて買っても1225円!(※価格は2015年12月時点のものです)
人気があるのは、「1位 大根」「2位 玉子」「3位 昆布「4位 ちくわぶ」」だそう。4種類買っても200円でお釣りがくる。
▲その場でハフハフするのもよし、持ち帰って家族と食べるのもよし
▲珍しい『ぎょうざ巻(105円)』を両断してみた
■9種類・10個入りの『370円セット』もあり
「はんぺんと玉子と、あと大根も……」といった感じで湯気の立つおでん鍋を指さして選ぶのも楽しいが、あらかじめ袋に入ったセットも用意されている。大根と玉子のどちらかが主役で、ほかに8種類の種が入って370円(やさいボールが2個入っているので合計10個入り)。おかずとしても酒の肴としても十分なボリュームだ。
え? 大根も玉子も両方食べたいって? そんなときは「玉子も入れて」と言って追加料金を払えばよいのです。
▲これだけ入って370円
▲ある日の『370円セット』。玉子でも大根でもなく、じゃがいもが2つというパターン
取材のためにお話をうかがいながら、おでんを販売する様子を見せていただいた。気づいたのは、おでん鍋のなかの具をつねに丁寧に動かしていること。煮込みすぎてしまわぬよう、裏返したり上下の種を入れ替えたり。とても丁寧なお仕事ぶりだ。
■できたてのおでん種、毎日がサービス価格
そうして丁寧に煮こまれたおでんを安く買えるのもうれしいが、家庭で煮るためにおでん種を買うと、さらに安くて驚く。
「『さつま揚』が150円? ちょっと高いわね」と言ったお客さんが、それが5枚の値段であることを知って頬をゆるませる、なんて光景がしょっちゅう見られる。
▲販売ケースには自家製のタネが並ぶ。やさいボールは10個で150円!
▲できたての種のあれこれを買ってみた。合計1100円ほどだが、とても贅沢な気持ちに
▲土鍋でぐつぐつ(※大根、玉子、タコは別途用意しました)
■二代目・父と三代目・息子
『太洋かまぼこ店』の創業は1950(昭和25)年で、今年が65年目。この町の商店街のなかでもかなりの古株だ。
70歳になる二代目に取材を申し込むと「宣伝されて人がいっぱい来ちゃったら、いつものお客さんのぶんがなくなっちゃうよ」と、つれないお返事。当然のようにお写真もNG、お名前すら教えてくれない。地元のお客さんを大切にする、昔ながらの職人さんなのだ。
「では、あまり宣伝にならないように書きます」と変な約束をして、なんとか取材させていただいた。
「それにしても安すぎませんか?」と聞くと「そうなの? ほかの店の値段なんか知らないから」だって。いいねえ、こういう店。
▲ソロバンはお店の歴史のちょうど半分、33年前から活躍している
その息子・小曽川正さんは、昨年まではサラリーマンだった。二代目のご夫婦が長い間『太洋かまぼこ店』を切り盛りしていたのだが、昨年の暮れに奥さん、つまり正さんのお母さんが急逝されてしまった。葛藤の末に「自分を育ててくれた店と町の仕事を」と決意し、三代目が誕生した。
▲「顔は出さないで」はお父さん譲り? でも、お店に行けば優しい笑顔で迎えてくれます
取材中、学校帰りの小学生が店先まで走ってきて「おつゆちょうだい」。快くおでんの出汁汁を手渡す三代目。地元の町に育てられた三代目が、こうして町を育てていくんだなあ。
_▲△▲_
『太洋かまぼこ店』
▲外観
住所 東京都板橋区中板橋15-14
グーグルマップ こちらのg(小文字・ピンク色)
最寄り駅 東武東上線『中板橋』駅北口から徒歩約4分
定休日 なし(日曜日に休業することがあります)
営業時間 10時30分から19時(売り切れじまい)まで
_▲△▲_
【■075 取材日:2015.11.4】
この記事へのコメントはありません。