福岡県

まぼろしの夫婦餃子を御賞味あれ!『宝香閣』


昭和46年、筑紫野市宮田町にて創業。道路拡張のために場所を移転したのち、平成23年に太宰府市高雄にて閉店。40年に渡って店の看板メニューとして人気を博し、惜しまれつつも一度は幻の味となった『宝香閣(ホウシャンカク)』の餃子を紹介する。

皮は薄く、全体的にしっとりとしていて弾力がある。焦げ付いた底の部分は、タレとの相性がバツグンに良い。噛みしめると滋味が染み出す。と書くと、しごく当たり前の事のように思える。餃子とはそういう食べ物だ。しかし、ここのは一味違う。具は多くもなく少なくもなく、これでもかと言うほど細かく刻んであって、咀嚼するうちにパラリとほぐれて消えてしまう。まるで魔法のようだ。舌の上には、肉と野菜の旨味だけが残る。具の旨味と、タレとコゲにしみこんだ脂が織りなす絶妙のバランス。ご飯がすすむのだ。
創業当時からの分業体制で、具の仕込みはオヤジさんの、皮に包んで焼くのは女将さんの仕事だ。つまり、旨さの秘訣は長年連れ添った夫婦にある。


▲餃子定食は550円、餃子単品は10ヶで320円。差額の230円で賄える量ではない。儲けなどほとんどないに違いない。


▲昔ながらの餃子には流行りの羽なんかついてない。あんなものは飾りですよ。断面図を載せようかとも思ったけれど、無粋なのでやめた。奇をてらわないのが宝香閣の良いところだ。

世の中には、店屋物が越えることのできない家庭の味がある。味噌汁だったり、カレーライスだったり、グラタンだったり、人それぞれ育った家庭によって違う。餃子もその代表だ。そこらの店屋物には絶対に負けないというのが自信の源のようだ。比較対照は中華料理屋やラーメン屋の餃子であって、よその家庭のものではない。

そもそも、なぜ家庭で作る餃子は美味いのか。これはおそらく逆で、外食で食べる餃子があまり美味くないからだと思われる。おそらく、コスト面での制約が大きいのではないか。価格設定は一皿300円前後といったところだ。そこから利益を上げなくてはならない以上、満足な材料費をかけられないといった事情があるのだろう。中には業務用として仕入れた品を、そのまま出す店もあると聞く。実利の希薄なラーメンのオマケに、創意工夫を凝らそうという料理人は少ないのではないだろうか。
その点で、収益を上げることを目的としない家庭の餃子には分がある。「餃子はお母さんの作ったものが一番」と言いながら、子供達は具だくさん餃子を頬張る。

ただし、デメリットを熟練の技で補った、家庭の味に勝るプロの餃子も確かに存在する。今回紹介する宝香閣は、グルメ御用達の店ではない。客層は外回りのサラリーマンや学生が主で、中華料理の看板を掲げてはいるものの、格式張ったところのない定食屋に近かった。いつも笑顔で元気の良いオヤジさんと、輪をかけてチャキチャキした博多美人の女将さん、パートのおばちゃんの3人で店を回していた。厨房から聞こえてくる、夫婦の威勢の良いやりとりに惹かれて通う客もいたはずだ。
宝香閣はまた、名だたるデカ盛りのお店でもある。昼食時ともなれば、店内は男性客で常に満員だった。宝香閣の餃子には、世の母親に負けない愛情があった。店主夫婦の「お腹いっぱい食べてほしい」という想いが、薄皮の餃子にギッシリと詰まっていた。

その宝香閣が閉店したのは4年前のこと。もともと心臓病を抱えていたオヤジさんの体調が思わしくなく、鍋を振れなくなったのが理由だ。最後の1年ほどは、いつ行っても臨時休業状態だった。
「やっぱり働きたい気持ちが強かったとよ」
今になって店を再開した動機について、おかみさんはこう語る。
「40年もやってきて、このまま終わるとは残念やったけんね」
女将さんが懸命に看病した甲斐あって、オヤジさんは元気だそうだ。店に立つことこそないものの、今も食材の仕込みを担当している。


▲からあげ弁当(450円) 他にソース焼きそば(430円) ニラの卵とじ(400円)などもある。ご飯の盛りは健在。老婆心ながら心配してしまう。無理してませんか、もう少し高くてもいいですよ。


▲▼高雄で開業していた平成22年頃の店舗。いつ行ってもシャッターが閉まっていた。宝香閣の餃子が食べられなくなるかもしれない。薄々感じていた心配は現実のものになった。



▲お持ち帰りがメインながら、店内での食事もできる。「あげん(高雄の頃のように)忙しいとはもう無理。1人でやるとなら、このくらいの広さがちょうどよか」と女将さん。マイペースで末長く店を続けてください。それがファン一同の偽らざる気持ちです。

▼ぎょうざからあげ宝香閣
福岡県筑紫野市紫1-18-1(地図を表示する
092-921-0804(電話予約で待たずに持ち帰り可)
営業時間 12時~21時
定休日 不定休
駐車場あり 1台
西鉄大牟田線紫駅前

 

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