福岡県

福岡で美味しいニシン蕎麦を『大地のかぜ』


▲こちらは『かぜのたみ』の「きじそば」。雉肉でダシをとったつけ汁で食べる、元は長野県の郷土料理だそうだ。今回紹介する『大地のかぜ』の「にしんそば」は京都府がルーツ。きじそば同様に福岡県民にはなじみの薄い食べ物だ。

西鉄天神駅から歩いて数分、天神北バス停の目の前にある『大地のかぜ』で、ニシン蕎麦を食べさせてくれるという話を聞きつけ、さっそくお店へ行ってきた。ミシュランに掲載された筑紫野市の手打ち蕎麦屋『かぜのたみ』の姉妹店だ。今がニシンの旬というわけではない。なぜと思われるかもしれないが、ニシン蕎麦に用いるのは「身欠きニシン」といって、冷蔵技術が発達していない時代に生まれた保存食用の干物だから、季節はあまり関係がない。

福岡はうどん伝来の地だ。そのせいか、うどん屋は多いけれど、一部を除けば蕎麦屋は圧倒的に少ない。蕎麦が食べたければ、うどん屋に行くのが一般的だ。ただし、メニューにはあっても盛り蕎麦だけだったり、うどんのバリエーションが、そっくり蕎麦にすげ変わるだけだったりする。ニシン蕎麦は、どこででも食べられる品ではない。
美味しいのかと問われると、こればかりは好きずきとしか言いようがない。干物を戻してから甘辛く煮込むのだけれど、完全に柔らかくなりきらないものが多い。味付けも濃くて、汁にあっていない。とってつけた感は拭えず、食べなれた者にとってはご馳走でも、初めて口にしたらハテナマークが浮かぶかもしれない。

蕎麦の上にニシンの甘露煮を横たえて、さらにその上から蕎麦を一房かぶせるのが一般的なレイアウトだ。ただし店によってまちまちで、九割がた沈んでいて、かろうじて端だけが頭を覗かせているものもあれば、逆に丸々を蕎麦の上に載せて出すところもある。


▲『大地のかぜ』のニシン蕎麦的ではない「にしんそば」。一度ご賞味あれ。

この由来について、そもそもなぜ、ニシンを蕎麦に乗せるに至ったかには諸説あるのだけれど、今から20年ほど前、行きつけの蕎麦屋の店主から興味深い話を聞いたことがある。
ニシンという字は「鰊」が一般的だけれど、魚偏に非ずと書いて「鯡」と読ませる場合もある。これは昔、京都のお坊さんが底冷えのする冬を乗り切るために、安く大量に手に入るニシンを栄養食として食したからだそうだ。生臭を禁じられているため、「これは魚にあらず、木の葉である」と言い訳して、他人の目を憚るため蕎麦の下に隠して食べた。兎を鳥だと言い張ったり、お酒を知恵の湯だと誤魔化したりするのと同じく、坊主の得意な屁理屈が由来になっている。だから本来は丼の底に沈めるのが正しいのだけれど、まれに粗忽者が入れ忘れたり、早合点な客がかけ蕎麦と勘違いするので、ニシンの姿が確認できる今の形になった。

まだインターネットが一般家庭に普及していなかった頃に聞いた話だから、裏を取るあてもなく鵜呑みにしていた。ところが最近になって調べてみると、諸説の方はいくらでも出てくるのに、なまぐさ坊主と木の葉の話は検索に引っかからない。いかにも蕎麦打ち職人といった感じの、まじめ一筋で実直そうなオヤジだった。あれはホラ話なのだろうか。たしかに面白くはあるけれど、できすぎた話だとは思っていた。しかし、眉に唾しつつも、既に数え切れないくらいの人に吹聴しているし、今さら根拠のない嘘でしたと言を翻すのも気がひける。


▲一般的なニシン蕎麦。蕎麦をひと房かぶせるのは、味の濃い甘露煮を汁に馴染ませつつ、さらに身を柔らかくするためらしい。

『大地のかぜ』のニシン蕎麦はうまかった。良い意味で裏切られた。大ぶりでふっくらしたニシンは食べごたえ十分。汁によくなじんでいて、蕎麦と一緒に口に運んでも違和感は感じない。それもそのはず、使っているのは伝統的な身欠きニシンではない。明太子メーカー『かば田』の協力のもと生み出した、独自の調理方法と味付けを用いているとのこと。エキスの染み渡った出汁を残すのがもったいなくて、ぜんぶ飲み干した。
聞くところによればこの「にしんそば」、普段はあまり数が出ないらしい。やはりなじみがないせいか、京都出身のお客さんが懐かしさから注文する程度だそうだ。実にもったいない。ニシン蕎麦を知っている人も知らない人も、一度は食べてみるべきだ。

▼かぜのたみ
福岡県筑紫野市天山537-1(地図を表示する
092-926-5998
平日
11時30分~15時30分
土日祝日
昼 11時30分~15時30分
夜 17時30分~21時
火曜定休
駐車場有

▼大地のかぜ
福岡県福岡市中央区天神3-1-16(地図を表示する
092-724-3729
昼 11時~17時
夜 17時30分~24時
日曜定休
西鉄天神駅から徒歩すぐ

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