筑紫野市にありながら、市民の中でも存在を知っているのはごく一握り。週に一度、水曜日の昼間しか開いていないカレーハウス『エメ』の、特別なカレーライスを紹介する。
もし偶然通りかかって、このお店のカレーにありつけたとしたら、もうそれだけでかなりの強運の持ち主だ。休みの日は貼り紙1枚しか出ていないから、そこにあることすら知らないという人が結構いそう。たまたま一度行ったきり、二度と巡り会えないなんてこともあるかもしれない。なぜ週に1度なのかといえば、食材の仕入れ量に限りがあるから。それから、日頃なにかと忙しいオーナー白水百合子さんの、唯一空いている日が水曜日だからだ。
ちなみに、店名の『エメ』は愛という意味。歌劇「ロミオとジュリエット」、主人公2人が秘密の結婚式で歌う曲のタイトルから拝借したのだそう。熱烈な宝塚ファンである白水さんらしいネーミングだ。
▲カレーライスには、サラダ付き(750円)サラダ・コーヒー付き(960円)サラダ・コーヒー・ケーキ付き(1050円)の3つのセットがある。ライスの大盛りは無料、ルーの増量は+210円。器を含め、見た目は地味で素朴だ。しかし、ありふれた家庭料理の延長だと思って口にすると、深いコクと味わいに驚くかもしれない。
▲カレーは希少部位の牛テール(尻尾)を使っている。それだけでも十分美味しいけれど、少し贅沢をしたい人には佐賀牛テールカレー(1300円)のほか、チーズをたっぷり使った焼きカレー(950円)もある。
▲週替わりのデザートもすべて手作り。色鮮やかで目にも楽しい。
▲竹炭を使ったアクセサリーなど、小物の販売も行っている。
もともとこのエメカレーは、白水さんのお兄さんが朝倉市堤で営業している会席料理『味処 ひろ吉』のまかない料理だったらしい。その味にほれこみ、ひろ吉を知ってもらうきっかけになればと考えたのがオープンのきっかけだそうだ。
まかないというのは従業員用の食事のこと。しかし、どうにも繋がらないのは「会席料理」と「カレーライス」の関係だ。カレーライスを食べると、なぜ会席料理の味を知ることができるのか。それに、まかないは仕事の合間に作る性質上、どうしても手早くできるものが多くなる。一概には言えないけれど、見るからに手間暇がかかっていそうで、希少部位をたっぷり使ったテールカレーは、従業員だけが食べるには不向きなように思う。
あれこれ考えてみたものの、どうも納得のいく答えが見つからなかった。そこで思い切って、エメカレーの生みの親に疑問をぶつけてみることにした。
▲『味処 ひろ吉』があるのは住宅地の真ん中、エメに負けず劣らずわかりにくい立地だ。道沿いに大きな看板が立っているので、近くまで来れば迷うことはないはず。
▲お酒の飲めない僕のために作っていただいた料理の数々。どれもこれも小味がきいている。
▲骨までしゃぶりたくなるアラ炊き。まんべんなく味がしみていて、なおかつ美しい。素人にはなかなか真似できない。
「あのカレーがまかないであることは確かなんですが、もともとはお客様用に作ったものなんです。常連さんの中には会席料理に飽きて、たまには変わったものが食べたいとおっしゃる方もおられます。あれもカレーライスをというリクエストがあって、試行錯誤を重ねて作ったものなんです。もちろん一人分だけ作るわけにはいかないので、私たちもまかないとして相伴しますがね」
なるほど、すっきりと霧が晴れたような気がした。しかし、それ以上に驚いたのは、会席料理の店へ来てカレーライスを頼む客の存在だ。カレーが食べたいのなら専門店へ行けばいいこと。単なる美味しいカレーではなくて、和食の料理人としての腕を見込んだ上で、『味処 ひろ吉』のカレーライスが食べてみたいということなのだろうか。
「本来ならば会席料理としてお出しするものではありませんが、お客様の食べたいものが一番美味しいものであることには違いありませんから」
エメのカレーには、その名のとおり『味処 ひろ吉』のお客様に対する愛と、料理に対して真摯に向き合う姿勢が溶け込んでいた。ちなみに現在はホルモン料理を研究中とのこと。残念ながら常連客でない僕らが口にすることはかなわないけれど、辛抱強く待っていれば、いつかエメのメニューに加わる日がくるかもしれない。
▼カレーショップ エメ
福岡県筑紫野市紫4-1-1(地図を表示する)
090-3190-4163
11時30分〜15時
水曜日のみ営業
西鉄大牟田線紫駅から徒歩10分
▼味処 ひろ吉
福岡県朝倉市堤837-2(地図を表示する)
0946-23-0622
17時~22時(昼間は要予約)
不定休
駐車場有
▲ひょっとすると、兄妹「愛」というのもあるのかもしれない。よく似ていらっしゃいます。
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