「スフォリアテッラ」貝殻に秘めたバリスタの想い

福岡県

「スフォリアテッラ」貝殻に秘めたバリスタの想い

2015/11/9
福岡県
コメント: 0
投稿者: 河蒸気

▲新しくなったTSUTAYA筑紫野店のブックカフェ『カフェオスピターレ（旧バンビーノ）』の目玉のひとつが、このイタリアはナポリ生まれの焼き菓子、スフォリアテッラ（貝殻のパイ）だ。チーズとオレンジピールの濃厚でいて爽やかな甘みを、バターを使わない軽やかなパイ生地で十重二十重におし包んだ形は、日本人が理想とする「おもてなしの心」にも通じるような気がする。

『オスピターレ』はカフェであり、スフォリアテッラを製造販売する会社でもある。10月21日から27日までの7日間、銀座三越デパートで開催された「食のイタリアフェア」では6000個を売り上げた。現在のところ、日本でまとまった数の生産が可能なのは同社だけだそうだ。しかし、量産体制が整ったのはつい最近のこと。それまでは、どんなに頑張っても１日あたり60個しか生産できなかった。

株式会社オスピターレ代表であり、カフェのバリスタも兼務する森崎祐希氏に、主力商品であるスフォリアテッラについてお話を伺った。

■きっかけはエスプレッソコーヒー
森崎氏がスフォリアテッラに出会ったのは2005年のこと。1996年に日本へ上陸したアメリカ発の大手カフェ・チェーンが、急速に全国へと版図を広げていた頃だ。当時、既にこのコーヒー業界の門をくぐっていた森崎氏には、常々疑問に感じていたことがあった。
「当時はエスプレッソコーヒーが流行っていたんですが、私にはそれがどうしても美味しいと思えなかったんです」
現在はIIAC（イタリア国際カフェテイスティング協会）の資格を取得し、エスプレッソコーヒーの普及に努めている森崎氏も、その頃はまだ一介の喫茶店のマスターでしかなかった。
「そこでエスプレッソコーヒー発祥の地、イタリアへ研修に行くことにしました。どういった環境の下で、どういった風に飲まれているのか、現地の空気に触れながら勉強したいと思ったんです」

▲▼オスピターレの主役の一つであるエスプレッソコーヒー。食後に口のリフレッシュをしたい時や、ちょっと気分を変えたい時に、砂糖をたっぷり入れて飲むものだそうだ。

■偶然の出会い
滞在したのはミラノとナポリ。コーヒー文化が、北と南でどう違うのかを知るための試みだった。ある時、研修の合間に立ち寄ったナポリのパスティッツェリアで、見たこともないユニークな焼き菓子が目に留まった。
「バリバリした食感が新鮮でした。当時はまだドルチェといえばティラミスの独壇場でしたが、いずれこの菓子も日本に入ってくるだろうという、確信に近いものを感じました」

■横山千尋氏と
帰国後間もなく、森崎氏はとある催事会場で、その後の方向性を決定づける出会いを果たす。既に日本におけるバリスタの第一人者として活躍していた横山千尋氏（バリスタ、ジェラート職人現デルソーレ専務取締役）だ。そして横山氏が出店していたカフェのメニューに、偶然にもスフォリアテッラがあった。
「ただ、それはイタリアから取り寄せたものでした。輸入品だと、どうしてもコストが割高になってしまう。私はなんとしても、自分で作って売りたいと思ったんです」

■そしてオスピターレへ
横山氏の薫陶を受け、本格的にバリスタの道を歩み始めたのちも、スフォリアテッラ作りには取り組み続けた。その甲斐あって一応の完成はみるものの、なぜかイタリアで食べた味には遠く及ばなかった。
「レシピは入手できましたが、満足のいく物は作れなかった。イタリアと日本では、水の硬度が違うんです。同じ材料を使って同じ作り方をしても、水が違うと同じものにはならない。それに最後まで気づけなかった」

現在、オスピターレで提供されているスフォリアテッラは、店舗で販売しているプレーン、チョコレート（各250円）、マロン（350円）と、通信販売のみのバオバブ＆いちじく（5個セット1890円）、あまおう（5個セット1350円）を加えた５種類。味も本場イタリアのものに、さらにひと工夫を加えている。
「本来は、もっと淡白で軽い食感なのですが、それを苦手な人の多いシナモンの量を抑えたり、リコッタチーズをクリームチーズに変更するなどして濃厚な味わいにしています」
試行錯誤を繰り返し、苦労してたどり着いたイタリアの味を、そのままメニューに載せる気にはならなかったのか。
「あえて、よりコーヒーにあう味へとアレンジしました。私はバリスタ、本業はコーヒーですから」