筑紫野市永岡の『住吉ラーメン太閤』はオープンから今年で12年になる。伝統的な塩豚骨スープで、苦もなく全部飲み干せるアッサリとしたスープが信条。最近のラーメン屋に多い、これでもかとばかりに個性を押し付けてくる味ではない。
実は、地域編集長になった当初から、取材すると決めていたラーメン屋が3つあった。その一角だった二日市駅前の「八宝軒」が閉店したのを知り、急に不安になって残りの2店を確認しに行った。どちらの店主も既に若くはなかったからだ。しかし、数年ぶりに暖簾をくぐった『太閤』のカウンターに親父さんの姿はなく、どことなく面影のある青年の姿が・・・
▲主力商品のラーメンは500円。トッピングでネギ山(50円)も頼める。替玉100円、もやしラーメンが550円、チャーシューの増量は200円増し。
▲麺を掬い上げると、豚骨独特の匂いと共に、茹で上がった麺の香りが立ち昇る。麺に絡むことを良しとし、やたらとスープで勝負をかけたがる最近のラーメンにはない特徴だ。むしろこれこそが博多ラーメンの真骨頂。
▲セットメニューの塩豚丼はラーメン+で800円。豚肉、玉ねぎの上に、ボリューム感溢れる目玉焼きが載る。くちくなった腹をさすりつつ、否が応でも「さあて昼からひと頑張り」という気になる。
▲開店から半時ほどで、きれいさっぱり消え失せる角煮セット(800円)の角煮がこれ。とろとろに煮込まれていて、軟骨まで柔らかい。いつ行っても売切れの理由がわかる。ちなみに、ご飯のお代わりは1回無料。他に餃子セットもある。
2代目が跡を継いで3年が経つ。きっかけは創業者であるオヤジさんの体調不良。店を続けるのは難しいと判断した時、後継者として真っ先に手を挙げたのが息子の良紀氏、当時は入社5年目のサラリーマンだった。5年目といえばもはや新人ではない。仕事をバリバリこなすようになって、そろそろ昇進をという頃合いだ。2代目はその時の心境を「勢いですね」と照れ臭そうに語る。あと3年長く勤めていたら、そこまでキッパリと踏ん切りが付けられた自信はないそうだ。現在は奥さんになっている恋人から反対されることなく、義理のお父さんの理解もすんなり得られたあたり、2代目の真面目な人柄の賜物かもしれない。
むしろ、店を継いでからの方が悩みが多かったようだ。それまで家業の手伝いをしたことはあっても、ラーメン屋での本格的な修行経験はない。仕事を教わろうにも、先代は病床にあってままならない。父親の背中を見て育ってきたとはいえ、最近のやたらとラーメンを「道」になぞらえる風潮からすれば、未熟であるととられかねない。また、守るべきと決めた先代の味と、2代目が目指す方向性の間で迷走した期間があったようにも見受けられる。
取材を進める中で、女将さん(先代の奥様で、つまり2代目のお母さん)の言った言葉が忘れられない。
「同じ材料を使って、同じ作り方をしても、作る人が違えば同じ味にはならない。父ちゃんの味とはどこか違ってしまう。そんなもんですよ」
太閤を陰に日なたに支え続けた女将さんの一言は重みが違った。2代目も最近は、ことさらに「父ちゃんの味」を意識することはなくなったとのこと。それが逆に功を奏したのか、味にうるさい先代からの常連さん達にも、この味ならと合格点をもらえたそうだ。徐々に客足が回復し、経営が軌道に乗り始めた。売り上げの伸びは自信にも繋がっているようだ。
▲▼2代目からメニューに加わった醤油ラーメン。澄んだスープが歯応えのある太めの麺の美味さを活かしている。先代が醤油ラーメンを作ったら、やはりこうなったのではないかと思う。作らなかっただろうけれど。
太閤のことを記事にしようと決めてから、インターネットで情報収集をした。そこで目を通した大手グルメサイトの宣伝文と画像が、実際に触れた2代目の人となりと噛み合わなくて戸惑った。腰に手を当て胸を反らせて、カメラに向かって自信ありげに微笑む姿からは、妙なところに力が入っているような違和感を覚えた。それが宣伝のプロによる巧妙なテクニックなのか、2代目の心境の変化なのかはわからない。しかし、少なくとも僕の知っている2代目からは、自分を無理に大きく見せようとしている印象は受けない。しっかり地に足をつけたラーメン屋のオヤジ・・・先代の横顔に似ているような気がする。
▲お師匠さんでもある女将さんとの2ショット。2代目の肩からはすっきりと力が抜け、目に迷いがない。一見優しそうでいて、痛いところを遠慮なく抉ってきそうな女将さんの笑顔が少し怖い。所詮は他人の師弟関係ではない、最高のタッグが作る2代目太閤の今後に期待です。
▼住吉ラーメン太閤
福岡県筑紫野市永岡1490(地図を表示する)
092-922-5678
昼 11時〜15時30分
夜 18時~22時(材料がなくなり次第終了)
第1・3月曜日・毎週火曜日定休
駐車場有
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